第1章 はじめに 1.1 最終目標 作業者が「安全を自分ごととして捉え、言われなくても安全な行動を実践する」ことを目指す。外部から押し付けられたコンプライアンスではなく、作業者やその仲間が必要性を理解し、仲間を守るために実践する安全文化の定着を最終目標とする。
1.2 法的事項 労働安全衛生法第1章第3条には、事業者の責務及び仕事を請け負わせる者の責務が記載されている。また、第4条には労働者の責務が規定されている。加えて第4章第20条から第25条には事業者の責務、第26条には労働者の責務が記載されている。安全作業は事業者及び労働者の責務である。
1.3 作業者の責任と権限 すべての作業者は、自分自身の安全だけでなく、同僚や周囲の人々の安全にも責任を持つ。例えば樹上作業者の身に危険を発見・予測したら、直ちに作業を中止し必要な対策を講じる義務がある。この原則が機能するためには、「危険を指摘した人が不利益を受けない」という環境が不可欠である。安全のために声を上げることが賞賛される文化こそが、最終目標の土台である。作業チーム皆が、お互いの安全を思い、「皆今日も安全に家に帰ろう」という意識を育てることが大切である。
第2章 現地事前調査 樹上作業を行う場所の事前確認を実施し、その確認内容を記録する。
2.1 危険評価(ハザードアセスメント) すべての樹木作業は、作業開始前の危険評価から始まる。これは「形式的なチェックリスト」ではなく、「今日、この現場で、何が自分や他人を傷つける可能性があるか」を真剣に考えるプロセスである。重要なのは、危険評価は作業開始前の一度きりではないということである。作業の進行に伴い、天候の変化、樹木の構造変化(枝を切ることでバランスが変わる)、新たな危険の発見などにより、継続的に再評価しなければならない。「最初に確認したから大丈夫」ではなく、「常に危険を感知し続ける」姿勢が求められる。評価結果は、現場の全作業者に共有されなければならない。一人だけが危険を認識していても、それが共有されていなければ、他の作業者がその危険によって被害を受ける。危険評価は「全員の安全のための全員の行動」である。
2.1.1 評価項目 ツリーインスペクション
樹木の構造的健全性:腐朽、亀裂、枯れ枝、折れ枝、子実体、空洞、ツル絡み、根の切断痕、樹皮の滑落、異常な膨らみ、動植物の生育、樹高、幹周、枝張り、樹勢など サイトインスペクション
架空電線:位置、距離、種類など 地盤の状況:傾斜、湧水、掘削痕、踏圧、盛土など 周辺樹木:距離、密度、樹高、種類、所有者など 構造物:距離、種類(住居、工場、歩道、車道、消火栓、地下埋設物の有無、庭石、壁、フェンス等)、所有者など 交通状況:交通量、通学路、バスの運行、デイサービスなど 気象状況:風、雷、降雨、降雪など 2.1.2 樹木評価の二段階 ― 現場簡易評価と専門精密診断 樹木作業前の樹木を評価する作業は、責任範囲と用いる手法によって二段階に分ける。樹木及び力学に関する知見を有する者が現場で行う「簡易評価(一次スクリーニング)」と、樹木医等の専門家が機器を用いて行う「精密診断」である。簡易評価はその日の作業可否を保守的に判断するためのものであり、精密な健全度の定量や内部欠陥の確定診断を代替するものではない。
樹木及び力学に関する知見を有する者には、樹木評価モジュール講習修了者などを含む。
項目 段階1 現場簡易評価 段階2 専門精密診断 実施者 樹木及び力学に関する知見を有する者 樹木医その他の有資格専門家 目的 その日・その木で作業してよいかとアンカー選定を保守的に判断(go/no-go) 内部欠陥・破断リスクを定量評価し、作業可否や対処方針を確定 主な手法 目視・打診・突き刺し(プロービング)・子実体や食害痕の確認・バウンズテスト 穿孔抵抗測定・音波樹木断層診断・引張(静的荷重)試験・t/R等の定量・根系調査 必要な機器 特別な機器を要しない 専用の診断機器・専門技術を要する 限界・責任 健全性を保証しない。異常の発見と回避・エスカレーション(対応の引継ぎ)が役割 定量評価と安全判断は専門家の責任範囲
段階1:樹木及び力学に関する知見を有する者が現場で行う簡易評価(一次スクリーニング)
目的 :その日・その木で登攀作業を行ってよいか、どこにアンカーを取るべきか/取るべきでないかを保守的に判断する。go/no-go と「専門家へのエスカレーション要否」の振り分け。
実施者 :樹木及び力学に関する知見を有する者。
用いる手法(特別な機器を要しない) :
地上からの目視(全体の傾き・偏心・枯枝・樹冠の異常・滲出物)。 登攀経路・アンカー候補の近接目視(内包樹皮・共優勢幹、亀裂、こぶ・隆起)。 打診(濁った音・空洞音)。 突き刺し・プロービング(軟化・空洞の簡易確認)。 子実体(キノコ)の有無。 フラス・穿孔痕・樹皮の浮き等の昆虫被害の痕跡。 基部・根系・根上がり・地盤の簡易確認。 バウンズテストによる動的確認。 判断基準 :
健全と判断できる部位にのみアンカーを取る。 欠陥の疑いがある部位は使わない(疑わしきは使わず)。 簡易評価で判断がつかない/重大な欠陥が疑われる場合は、作業を保留し段階2へエスカレーションする。 限界の明示 :簡易評価は内部腐朽の範囲・残存壁厚・破断強度を定量できない。「異常の兆候を見つけて回避・エスカレーションする」ためのものであり、「健全であることを保証する」ものではない。
段階2:専門家による精密診断
目的 :簡易評価で懸念が示された木、または高リスク・高価値・反復作業対象の木について、内部欠陥や破断リスクを定量的に評価し、登攀・作業の可否や対処方針を判断する。
実施者 :樹木医その他の有資格専門家。
用いる手法(機器・専門技術を要する) :
穿孔抵抗測定(レジストグラフ等)による内部腐朽・空洞の検出。 音波樹木断層診断(ソニックトモグラフ)による断面の健全度マッピング。 引張試験(静的荷重試験)による根系・幹の安定性評価。 残存壁厚 t/R 等の定量評価。 根系調査。 評価・提言 :定量的な健全度評価、登攀・作業可否の判断、必要な処置(剪定・支柱・使用制限・伐採等)の提言。
責任範囲 :精密診断とその結論に基づく安全性の判断は専門家の責任範囲であり、クライマーの簡易評価とは区別される。
エスカレーションの基準(段階1 → 段階2)
次のいずれかに該当する場合は、現場判断で作業を進めず、専門家の精密診断を求める。
子実体・大きな空洞・進行した腐朽が疑われる。 基部・根系・地盤に異常が疑われる(木ごと倒れるリスク)。 重要木・大径木・公共空間等、失敗時の影響が大きい。 簡易評価では健全性を判断できない。 反復的・長期的にアンカーとして使用する木。 2.2 作業計画(ジョブプランニング) 危険評価の結果に基づき、具体的な作業計画を策定する。作業計画は、専門家だけが作るものではない。すべての作業者が計画の内容を理解し、自分の役割と、万が一の時に何をするかを把握していなければならない。「親方が決めたことに従う」ではなく、「全員が計画を内在化する」ことが目標である。計画は、作業の進行や状況の変化に応じて柔軟に修正されるべきものである。
2.2.1 作業計画の内容 作業内容と採用する工法(クライミング、ハシゴ、高所作業車、クレーンなど) 識別された危険とその対策 コミュニケーション手段(合図の確認) 必要な装備のリストアップ、点検 作業員の役割分担と位置 落下区域の設定 交通規制の必要性 緊急行動計画(最寄りの病院、連絡先) 必要なPPEの確認など 2.3 記録と報告
作業の記録(作業内容、電線の状態、異常の有無、ヒヤリハットの報告)を作成・保管する。記録は、安全の継続的改善のためのデータであり、事故発生時の原因究明にも不可欠である。「危なかった」体験(ニアミス)も報告し、将来の事故防止に活かす。
第3章 緊急時の対応計画 3.1 緊急行動計画(Emergency Action Plan) すべての作業現場には、事故や緊急事態が発生した場合の緊急対応手順を、全作業者が理解しておかなければならない。感電者の救助は、自分が感電しない方法で行う。電線が落下した場合は、周囲の人を避難させ、電力会社に通報する。CPR(心配蘇生法)とAED(自動体外除細動器)の使用能力が特に重要である。
「事故は起きないだろう」という楽観が、緊急行動計画の策定を後回しにさせる最大の原因である。しかし、樹木作業は常に重大事故のリスクを伴う。事故が発生してから「どうしよう」と考えるのでは遅い。緊急行動計画は、パニック状態での判断ではなく、事前に決めた行動を実行するためのものである。
3.1.1 緊急行動計画の項目 最寄りの病院の場所と連絡先 救急車の呼び方 現場へのアクセス経路の説明 応急処置の担当者 応急用品の配置場所など 3.2 樹上レスキュー計画 樹上作業(クライミング、高所作業車など)を行うすべての現場には、空中レスキュー計画を策定しなければならない。これは、樹上で作業者が負傷したり意識を失った場合に、安全に地上まで降ろすための具体的な手順である。レスキュー計画がなければ、意識を失った作業者はハーネスに宙吊りの状態となり、短時間でサスペンショントラウマ(宙吊りによる血流障害)を起こし、生命の危機に至る可能性がある。「レスキュー計画のない樹上作業は、安全な作業とは言えない」という原則は、この現実に基づいている。
3.2.1 レスキューが必要になる状況 墜落による負傷 チェンソーによる裂傷 枝の落下による打撲 電気による感電 蛇刺されによるアナフィラキシーショック 熱中症 その他の医療緊急事態など 3.3 レスキュー能力を有する人員の配置 樹上作業を行う際には、樹上レスキューを実施できる能力を有する別の作業者が、現場に少なくとも一人存在しなければならない。この規定は、事実上単独での樹上作業を禁止している。「樹上レスキュー能力を有する」とは、単に現場にいるだけではなく、実際に樹上に登り、負傷者を安全に降ろす技術と装備を持っていることを意味する。119番に電話するだけでは不十分である。消防隊が到着するまでの時間、消防隊が樹上レスキューの訓練を受けているかどうか、その間に患者の状態が悪化するリスクを考えれば、現場での即応能力が不可欠であることがわかる。これは日本の一人親方の樹上作業者にとって最も大きな課題であるが、「一人ではレスキューできない」という事実は変えられない。本項が示すのは、単独での樹上作業を認めない理想基準である。やむを得ず単独で作業を行わざるを得ない場合の現実的な対応は、3.4に定める。3.4に定める対応は、本項の理想基準を代替するものではない。
3.3.1 「樹上レスキュー能力を有する」者が実際にレスキューを行ってよいか ワークポジショニング(樹上作業)ガイドライン(以下「WPガイドライン」という。)では、「消防署への通報が第一、並行して即座にレスキューが開始できるよう準備すること」として、実際のレスキューには言及していない。被災者当人の意向、状態を含めた消防署との密な連絡と、それによる消防署からの指示に従う必要がある。
3.4 単独で樹上作業を行う場合の対応 樹上作業には、救助能力を持つ第二者の同行が推奨される。これが理想基準である。ただし、一人親方等、やむを得ず単独で樹上作業を行わざるを得ない場合は、以下のすべての条件を満たした上で作業を行うこと。家族、友人のために、安全に仕事を終えて家に帰ることを第一に考えてください。
3.4.1 作業開始の告知 地上にいる第三者(施主・隣人・通行人等)に対し、作業開始・作業場所・作業内容・予定終了時刻を告知し、異常が生じた場合に119番通報を依頼しておくこと。
3.4.2 緊急連絡手段の確保 携帯電話等により、樹上から直接119番通報が可能な緊急連絡手段を常時携行すること。電波状況を事前に確認し、通話が困難な場合は作業を中止すること。
3.4.3 自己救助手段の携行 セルフレスキュー装備(自己脱出・降下用器具)を携行し、その使用方法を習得していること。樹上で意識を失う前に自力で地上に降下できる手段を確保すること。
3.4.4 作業前の健康確認 めまい・疲労・体調不良・睡眠不足・飲酒等、判断力・身体能力を低下させる要因がないことを自己確認すること。少しでも不安がある場合は作業を中止すること。
3.5 応急処置とCPRの訓練 作業員は、有効な応急処置およびCPR(心肺蘇生法)の訓練を受け、その有効期限を保っていなければならない。樹木作業では、重篤な裂傷(チェンソー)、骨折(墜落)、感電、アナフィラキシー、出血など、即座に応急処置が必要な事態が発生し得る。救急車が到着するまでの数分間の応急処置が、生死を分けることがある。特にチェンソーによる大腿動脈裂傷では、出血制御の最初の数分が決定的である。感電では心臓の停止があり得るため、CPRとAEDの使用能力が求められる。「誰かがやってくれるだろう」ではなく、「自分ができなければ他に誰もいない」という意識が必要である。
3.6 レスキュー訓練の定期実施 レスキュー計画は、策定しただけでは不十分であり、定期的に実践訓練を行わなければならない。緊急時には、考える時間がない。訓練で体に染み込んだ手順だけが、実際の緊急時に実行できる。レスキュー訓練は、少なくとも年に1回、できれば半年に1回実施することが推奨される。訓練には、実際に樹上に登り、ダミー(人形)またはパートナーを実際に降ろす実技訓練を含む。加えてレスキューの多くはセルフレスキューが多いことから、事故発生時の初期対応とセルフレスキューの訓練が推奨される。「知っている」と「できる」は全く異なる。レスキュー技術を「できる」状態に保つことが、全員の命を守る最後の砦である。
第4章 作業前ミーティング(ジョブブリーフィング) すべての作業は、作業開始前の作業前ミーティング(ジョブブリーフィング)から始まる。これは形式的な朝礼ではなく、現場の危険、作業計画、役割分担、コミュニケーション手段、緊急時の行動を全員が共有するための重要な安全プロセスである。ブリーフィングは「説明」ではなく「共有」である。ブリーフィングなしに作業を開始することは、「全員が同じ絵を見ていない状態で動き始める」ことであり、事故の温床となる。
4.1 ブリーフィングの内容 ブリーフィングでは、作業計画の内容を全員で共有する。
作業内容と採用する工法(クライミング、リギング、高所作業車、クレーンなど) 識別された危険とその対策 コミュニケーション手段(合図の確認) 必要な装備のリストアップ、点検 作業員の役割分担と位置 落下区域の設定 交通規制の必要性 緊急行動計画(最寄りの病院、連絡先) 必要なPPEの確認など 第5章 事前準備 5.1 作業範囲の設定 作業現場の周囲に、明確な作業区域を設定し、無関係の人員の立ち入りを禁止(防止)する。バリケード、コーン、標識、監視員の配置など、現場の状況に応じた手段を講じる。少なくとも、落下物が到達し得る範囲を超えた区域を確保する。加えて作業範囲を退避箇所(セーフティーゾーン)、作業箇所(ワークゾーン)、降下箇所(ドロップゾーン)に区画化(ゾーニング)し、作業箇所の内容を明確化する。特に降下箇所(ドロップゾーン)の明示を推奨。区画化は作業の進行によって変化するため、その都度作業員全員による共有が大切である。狭い道路や隣接した建物のために十分な区域確保が難しい場合があるが、その場合は監視員の配置や吊り下ろす枝幹の大きさの検討など、代替手段で補う。
5.2 交通規制 樹木作業は、道路に隣接した場所、歩道上、または車道の一部を占有して行われることが多い。交通規制の目的は二つある。一つは作業者を車両から守ること。もう一つは通行人や車両を作業に伴う危険(落下物、飛散物、機械の移動)から守ることである。交通規制を伴った樹木作業は、作業者と第三者の両方にとって危険である。「短時間だから大丈夫」という判断が、交通事故の引き金となる。
5.2.1 交通規制の計画 交通規制は作業開始前に計画し、道路の種類、交通量、速度、視界条件、作業の性質に応じた規制方法を選定する。交通量が少ない住宅地内の道路と、幹線道路では必要な規制の規模が大きく異なる。日本では道路使用許可や道路占用許可が必要な場合があり、事前の申請が必要となる。計画段階で法的要件を確認し、必要な許可を取得する。また、交通規制に関係する周辺住民への周知に加え、バスの運行経路や、デイサービスの送迎等も考慮する必要がある。
5.2.2 標識と警告装置 作業現場の存在を接近するドライバーに事前に知らせるための標識を設置する。先行警告標識は、ドライバーが安全に減速・停止できる十分な距離に設置する。コーンやバリケードで作業区域を明確に示す。夜間作業や低視界時には、反射材、回転灯、照明を併用する。標識は「立ててあればいい」のではなく、ドライバーから実際に見える位置に、十分な大きさで設置されなければ意味がない。
5.2.3 誘導員(フラッガー)の配置 交通量が多い場所や、視界が制限される場所、片側交互通行が必要な場所では、誘導員(フラッガー)を配置する。誘導員は、交通規制の訓練を受け、高視認性安全服を着用し、明確な信号手段(旗、パドルなど)を用いる。誘導員は交通規制に専念し、他の作業と兼務してはならない。「枝の片付けをしながら交通も見る」という作業の兼務は、両方の安全を損なう。誘導員の安全自体も確保しなければならない。誘導員は交通の流れに最も近い場所に立つため、車両に接触されるリスクがある。
5.2.4 作業車両の配置と視認性 作業現場に配置する車両(トラック、クレーン、高所作業車など)は、交通の流れに対して視認性が高く、作業者の保護にもなるように配置する。回転灯、ハザードランプ、反射テープなどを活用する。車両自体が「移動式バリケード」の役割を果たすことがある。ただし、作業車両自体が交通の妨げとならないよう、配置と角度を計画する。狭い住宅地内道路では、車両配置だけで道路の大部分を占有してしまうことがあり、住民への配慮と安全のバランスが必要である。
5.3 識別された危険とその対策 5.3.1 電線の確認 現場到着後、最初に確認すべき項目の一つが架空電線の位置である。樹木と電線の関係(電線が樹冠内を通過しているか、枝が電線に接触しているか、作業中に電線に接近する可能性があるか)を評価する。電線の存在は、作業工法、使用装備、落下区域の設定すべてに影響する。「電線があることに気づかなかった」という事態は、現場評価の失敗である。そのため、事前確認における作業計画(ジョブプランニング)において、電線からの必要離隔距離、電線への保護カバーの設置の必要性の有無や設置費用、電力会社との協議までの事前準備が必要となる。
5.3.2 樹木の点検(ツリーインスペクション) 事前確認における作業計画(ジョブプランニング)において確認されたリスクについて、リスクに変化がないか、新たなリスクが発生していないか再度確認する。樹木の点検は登攀を行った際にも再度行い、地上では発見できなかった新たなリスクが見つかった場合、作業計画の変更と作業員全員による共有が必要である。
5.3.3 周辺環境の点検(サイトインスペクション) 樹木の周囲にある構造物(建物、フェンス、車両、庭石、壁など)に加え水道管、排水管、メーター設備などの地下埋設物の位置を確認し、落下する枝やリギングの荷重がこれらに影響を与えないよう計画する。「どこに何があるか」を事前に把握することで、落下方向の計画、リギングの必要性の判断、作業工法の選択が可能になる。密集住宅地では、ターゲット(保護すべき対象)が非常に近接していることが多く、この評価が特に重要である。また、樹木近くの構造物が根の伸長を妨げている場合は、一定方向に倒木しやすい状況にあることが予想されるため、木にかかる荷重の変化には注意を要する。
作業現場の地盤状況を評価する。傾斜、湿潤、不安定な地面、地下埋設物(水道管、排水管、メーター設備など)の有無、足元の障害物(石、穴、根)、土地境界線を確認する。車両や重機の配置に影響する地盤の耐力も評価する。雨天後のときは地盤状況が悪化している可能性がある。足元の安全は、すべての作業の安全の出発点である。
5.3.4 気象条件の評価 作業開始前および作業中、気象条件を継続的に監視する。強風は落下物の軌道を変え、リギング(枝幹の吊り降ろし)の制御を難しくする。加えてアンカーを設置した枝ごと折れて落下するリスクも大きい。根株腐朽が進行した樹木は根返りのリスクも考慮する必要がある。雷は樹木への落雷リスクがあり、雷鳴が聞こえたり雷光が確認されたら直ちに空中作業を中止する。降雨はロープや樹皮を滑りやすくし、クライミングの安全性を低下させる。また気温が高い日は熱中症のリスクがある。「今日はやめる」という判断ができることも、プロフェッショナルの資質である。
5.3.5 作業中の再評価 作業の進行に伴い、状況は常に変化する。枝を切れば樹木のバランスが変わる。風向きが変われば落下区域が変わる。新たな危険(隠れていた腐朽、予想外の電線、通行人の出現、照度の変化など)が発見されることもある。ブリーフィングは作業開始前の一度きりではなく、状況が変化した際には作業を中断し、再ブリーフィングを行う。「最初の計画に固執する」のではなく、「常に現実に合わせて計画を更新する」柔軟性が求められる。
5.3.6 作業完了時の現場確認 作業完了時に現場を安全な状態に戻す。現場の安全確認と清掃を行わなければならない。切断により弱体化した枝や、完全に切り離されていない「かかり枝」が樹上に残っていないことを確認する。かかり枝は後日落下する極めて危険な状態である。地上の木の破片、木くず、おがくずは、通行人がつまずきや転倒するリスクがあるため、速やかに除去する。交通規制が解除できる状態か、装備がすべて回収されているか(作業前後の数量が同じであるか)を確認する。現場を安全に戻すことは、プロフェッショナルとしての認識であると同時に、地域社会への責任でもある。
第6章 必要な装備 6.1 Personal Protective Equipment (PPE) PPE(個人用保護具)は、米国のOSHA(Occupational Safety and Health Administration)に定義があり、「作業中に発生する危険や有害要因から、作業者の身体を保護するために着用する装備」である。PPEは、危険を排除できない場合の「最後の防護線」である。安全の階層としては、まず危険源の排除、次に代替法の検討、工学的対策、管理的対策、そして最後にPPEという順序(Hierarchy of Controls(危険源対策の階層))がある。しかし樹木作業では、危険を完全に排除できない場面が多く、PPEは常に不可欠である。PPEは事故を防ぐものではなく、事故が起きたときに被害を軽減するものである。「事故が起きなければPPEは不要」という論理は、「事故は必ず起きる」という現実の前では通用しない。
6.1.1 PPEの種類 頭部の保護(保護帽、墜落用、電気用、飛来落下用など)
樹木作業中は常に適切なヘルメットを着用する。樹上作業者は墜落時の頭部保護と落下物からの保護、電気からの保護が必要であり、チンストラップ(あご紐)付きのアーボリストヘルメットが推奨される。地上作業者も、落下する枝、工具、木片から頭部を保護するためヘルメットが必要である。ヘルメットは衝撃を受けた後は交換しなければならない。外観に損傷がなくても、衝撃吸収材が損傷している可能性がある。
その他の情報は、「ワークポジショニング(樹上作業)ガイドライン補足―頭部保護具―」参照
眼・顔面保護(保護メガネ、ゴーグル、バイザーなど)
木片、おがくず、樹液、粉塵、農薬などから目を保護するため、安全基準を満たす保護メガネまたはフェイスシールドを着用する。チェンソー、チッパーの操作時は特に飛散物のリスクが高い。目の負傷は永久的な視力の損失につながる可能性があり、その影響はキャリア全体に及ぶ。「見えなくなったら仕事ができない」という当たり前の事実を、保護メガネ一つで防げる。樹上作業ではJIS T 8147やANSI Z87+やCE EN166または同等以上の耐衝撃性能を有する保護メガネを使用する。
聴覚保護(耳栓、イヤマフなど)
チェンソー、チッパーなどの動力工具は騒音を発生させる。厚生労働省の騒音障害防止ガイドラインでは、85dB(A)以上は管理対象、90dB(A)以上は聴力保護対策が必要とされている。長期間の暴露は不可逆の聴力損失を引き起こす。聴力の低下は徐々に進行するため、本人が気づいたときには取り返しがつかない。聴覚保護具は、作業中の警告音声や合図が聞こえる程度のものを選択する。過度の遮音はコミュニケーションの妨げとなり、別の危険を生むため、インカムの使用等、遮音とコミュニケーションの両立が可能な方法の検討が必要である。「少しの間だから」という油断の積み重ねが、生涯にわたる聴力損失を招く。
手の保護(作業手袋、耐切創手袋、絶縁手袋、防振手袋など)
作業内容に応じた適切な手袋を着用する。ロープ作業、リギング、枝の取扱いには摩擦や切り傷からの保護が必要である。ただし、回転部のある機械(チッパーの投入口付近など)では、手袋が巻き込まれるリスクも考慮する。農薬取扱い時は化学防護手袋を使用する。手は樹木作業における最も重要な「工具」であり、その保護はキャリア全体を守ることにつながる。
脚の保護(チェンソーパンツ、チャップスなど)
チェンソーを使用する際は、地上作業、樹上作業を問わず下肢の切創を防止するための保護衣(チェンソーパンツ、チャップス)の着用が求められており、現在はJIS T 8125シリーズやISO 11393に適合した製品が使用されている。ただし樹上作業においては、チャップスは枝等の引っ掛かりによりズレが起こりやすいため、チェンソーパンツの着用を推奨する。チェンソーによる下肢の裂傷は、大腿動脈を損傷し数分で致命的な出血に至る。下肢の切創を防止するための保護衣はチェーン接触時に繊維が引き出されスプロケットを詰まらせてチェーンを停止させる。「暑いけど着ないよりずっと安全」である。命と快適さの天秤は比較にならない。
足の保護(チェンソーブーツ、クライミングブーツなど)
樹木作業には、足首を保護し、滑りにくいソールを持つ適切な履物を着用する。チェンソー使用時にはチェンソー防護機能付きのブーツ(チェンソーブーツ)の着用が推奨される。不安定な地面、湿った木材、傾斜地での作業が多い樹木作業では、足元の安定性がすべての安全の基盤となる。サンダルやスニーカーでの樹木作業は、言うまでもなく論外である。
全身の保護(高視認性安全服)
高視認性安全服とは、作業者の存在を周囲に目立たせ、車両や重機の運転者などに早期に認識してもらうための保護衣である。路上や交通の近くで作業する場合は、高視認性被服(蛍光ベストなど)を着用しなければならない。樹木作業は路上や歩道に隣接した場所で行われることが多く、ドライバーからの視認性が作業者の安全に直結する。また、樹上、地上と人員が3次元に配置されることが多い樹木作業では、樹上作業者から地上作業者の位置が確認しやすいため、視認性の高さは安全作業にとって重要である。加えて早朝、夕方、曇天時は視認性が低下するため、高視認性安全服の重要性が増す。現在広く採用されている規格は、ISO 20471、JIS T 8127である。
6.1.2 PPEの点検・整備・交換 PPEは使用前に毎回点検し、損傷や劣化が見られた場合は直ちに交換する。PPEには寿命がある。ヘルメットは製造者の推奨する交換時期に従う。下肢の切創を防止するための保護衣は一度でもチェンソーに接触したら交換する。「まだ使えそう」ではなく、基準に基づいた廃棄が必要である。PPEは消耗品であり、その費用は安全への投資である。
6.1.3 PPEの適合性と規格 使用するPPEは、認められた規格(日本では主にJIS、国際的にはEN、ANSIなど)に適合した製品でなければならない。安価な未認証製品は、必要な保護性能を持たない可能性がある。PPEは作業者の体格に合ったサイズを選び、製造者の指示に従って正しく着用する。サイズが合わないPPEは、保護性能が低下するだけでなく、作業性を妨げ、着用を敬遠する原因ともなる。「自分に合った良いPPE」を選ぶことが、継続的な着用の鍵である。
6.2 ワークポジショニング用器具 樹木作業において、作業者が身体の作業位置を保持するために使用する保護具は、ワークポジショニング用保護具(以下「ワークポジショニング用器具、通称:アーボリストサドル、ツリーケアハーネス」という。)とする。ワークポジショニング作業に使用される身体保持用の器具。腰部及び腿部等において身体の作業位置を保持する構造器具で構成される。これは、枝幹に回し掛けしたロープ等の張力によって身体を支え、両手を用いた作業を可能にするための器具であり、胴ベルト、ワークポジショニング用ロープ(ランヤード)、伸縮調節器及びコネクタ等で構成される。
ワークポジショニング用器具は、身体の作業位置を保持することを目的とするものであって、墜落を制止することを目的とするものではない。このため、ワークポジショニング用器具を墜落の制止を目的として使用してはならない。
その他の情報は、「ワークポジショニング(樹上作業)ガイドライン補足―ワークポジショニング保護具―」参照
6.3 その他、道具類 6.3.1 ロープに関する総則 樹木作業に使用するすべてのロープは、その用途に応じた仕様を満たさなければならない。人命を支えるクライミングラインと、荷重を支えるリギングロープでは求められる性能が異なる。ロープは「ただの紐」ではなく、命を預ける安全装備である。用途ごとの適切なロープを選定し、人命保護(Life)とそれ以外(Non-Life)の峻別が必要。
6.3.2 クライミングライン(クライミングロープ) クライミングラインは人命保護(ライフセーフティ)用、樹木作業用として販売されたものでなければならない。最低破断強度、直径、構造(編み方)に明確な基準がある。ロープの細さはフリクションデバイスとの適合性にも影響し、細すぎるロープは摩擦力が不足して制動不良を起こす。「ロープの選定はシステム全体の安全性を左右する」という認識が必要である。樹木作業においては、破断強度はレスキュー等も考慮し22.24kN以上、ロープ末端にアイ加工部があるものに関してはアイ加工部19.0kN以上の破断強度を推奨。ロープの末端はほつれ防止処理を行うこと。
6.3.3 ランヤード(ワークポジショニング用ロープ) ワークポジショニングランヤードは、幹や枝等に回しがけするロープ等で、伸縮調節器を用いて調整したロープ等の張力によってU字つり状態で身体の作業位置を保持するためのもの。ランヤードは適切な長さに調整し、使用中にスリップ(落下60cm内)しないように措置を講じなければならない。
伸縮調節器を通ってランヤードの自由端が抜け進んでしまうことを防ぐための終端処理(ストッパーノット、エンドノット)を設けなければならない。ランヤードはクライミングラインとの併用(二重確保)が推奨される。
ワイヤコアランヤード(鋼線芯ランヤード)は、電気設備、電線付近での使用は禁止である。加えて、レスキューにおいてランヤードをカットすること(カットレスキュー)が困難であるためカットアウェイストラップの併用を推奨する。
その他の情報は、「ワークポジショニング(樹上作業)ガイドライン補足―ワークポジショニング用ロープ―」参照
6.3.4 その他のロープ類 プルージックコード、スプリットテール、スリング(Life)等、ロープ項目と同じ。最小破断強度は、使用状態(単線、複線)において22.24kN以上を推奨する。
6.3.5 カラビナ、スナップ クライミングシステムに使用するカラビナやスナップは、自動ロック機構を備えたものに限る。ゲートが意図せず開放することを防止するためである。カラビナについては自動2重ロック以上の機構を備えたものとする。破断強度はカラビナ22.24kN以上、スナップ16.01kN以上を推奨とし、製造者の仕様に従ったものを使用する。カラビナはゲートの開閉方向に荷重がかからない向きに装着する。トリプルアクション型など、不意の開放リスクが低いタイプが推奨される。カラビナ同士やスナップフックとの直接連結は禁止。
スナップは、ランヤード(ワークポジショニング用ロープ)の接続器具として使用する。
6.3.6 伸縮調節器 伸縮調節器は、クライミングライン上やワークポジショニングランヤードにおいての位置制御を可能にする装置である。ヒッチコード等のロープ類を巻き付けてその摩擦(フリクションヒッチ)を利用するタイプと、テコの原理により器具によってロープを挟み込む(フリクションデバイス)タイプに大きく分けられる。使用するロープの直径・構造との適合性が極めて重要である。不適合なロープとデバイスの組み合わせは、制動不良や急激な落下の原因となる。製造者が指定するロープ仕様の範囲内で使用し、使用前に動作確認を行う。デバイスの摩耗、亀裂、可動部の動作不良がないことを確認する。
6.3.7 アセンダーとディセンダー メカニカルアセンダー(登はん補助器具)とディセンダー(降下制御器具)は、使用するロープの直径・構造との適合性が不可欠である。不適合な組み合わせは、ロープ上でのスリップ(制動失敗)に直結する。アセンダーはロープを傷つける可能性があるため、歯の状態とロープへの影響を常に意識する。ディセンダーは、自動で停止する「セルフブレーキ」機能があることに加え、パニック時にロープを握りしめても制御された降下が可能な「パニックストップ」機能双方を備えたディセンダーが推奨。
6.3.8 ツリースパイク(Tree Spikes) ツリースパイクは、ギャフ(Gaffs)と呼ばれる針状の金具を樹皮に差し込んで足場とする器具である。ツリースパイクの重量は、材質(スチール、アルミ、チタン、カーボンファイバーなど)に影響される。また、スパイククライミングの快適さは、ツリースパイクの角度、スティラップ(あぶみ)の幅、パッドの大きさと厚さに影響される。対象となる樹木や作業によって、ギャフの長さや形状を選択できる。
6.3.9 リギング器具 リギング(枝や幹のセクションを制御して降ろす作業)に使用する装備は、予想される荷重に対して十分な強度を有しなければならない。リギングロープ、ブロック、スリング、プーリーのそれぞれがシステムの一部であり、最も弱い部分がシステム全体の強度を決定する。リギングロープとクライミングラインは絶対に兼用してはならない。リギングの衝撃荷重は静的荷重の数倍に達することがあり、装備の耐荷重を理解した運用が不可欠である。
6.3.10 スリング類 リギングや荷掛けに使用するスリングは、合成繊維またはワイヤーロープ製で、その用途に応じた強度を有しなければならない。スリングの吊り角度(チョークアングル)によって実効強度が大きく変化することを理解しなければならない。角度が広がるほど各レグへの荷重が増大し、破断リスクが高まる。
6.3.11 必要携帯品 ノコギリ(携帯時不意に刃が露出しない構造のもの) 携帯電話 ホイッスル 第7章 器具の点検 器具の損傷、劣化、改造その他の異常を早期に発見し、器具の故障による事故及び災害を防止すること。すべての器具は、使用前、使用中及び使用後に点検を行うとともに、定期的に詳細点検を実施しなければならない。点検内容は製造者の取扱説明書及び基準を最優先とする。点検は器具の使用継続を正当化するためではなく、安全な使用を確認するために実施する。不安全な状態が疑われる場合は「使用可能」と判断せず、使用停止及び詳細確認を行う。「疑わしい場合は使用しない(When in doubt, retire it.)」を原則とする。
7.1 ロープの点検 ロープは使用前に毎回、目視および触診による点検を行わなければならない。点検項目には、外被の摩耗・切断・毛羽立ち、芯の露出、結び目の異常、化学物質や熱による損傷の痕跡、硬化や柔軟性の変化が含まれる。ロープの全長にわたり、手で滑らせながら確認する。「見落とし」が命取りになる。点検は省略できない工程である。ロープの点検の際は、ロープ末端にプルージックや、デバイスの抜け止めとなる終端処理(ストッパーノット、エンドノット)があるか確認する。
7.2 ワークポジショニング用器具の点検 樹上での体勢変換や横移動の連続的な動作が必要になる。そのため摩耗による損傷に注意を要する。ワークポジショニング用器具のDリング、バックル、ウェビング、縫製箇所を使用前に点検する。また、摩耗しやすい共通箇所に加え、製品ごとに特徴がある摩耗箇所も理解して点検を行う。ワークポジショニング用器具は作業者の体とロープシステムをつなぐ要であり、その信頼性はシステム全体の安全性に直結する。
7.3 ワイヤコアランヤード(鋼線芯ランヤード)の点検 ワイヤコアランヤード(鋼線芯ランヤード)の場合、外被の損傷から内部の状態を目視で確認できないため、外被の摩耗が確認された時点や、使用していなくても定期的な廃棄判断が必要である。
7.4 カラビナ、スナップの点検 使用前にゲートの動作、ロック機構の確実な作動をゆっくり動かして確認し、不適な摩擦、引っ掛かりがないか、数度の動作確認を行う。特に雨天時は作動が鈍くなることに注意が必要である。また、本体の亀裂や変形、ゲートにバリが発生し、ロープ類を傷つける要因になっていないか確認する。潤滑油を使用する場合は成分に注意し、ロープ類に支障がないことを確認する。
7.5 ツリースパイク(Tree Spikes)の点検・メンテナンス パッドのへたり、ベルクロのへたり、ネジの緩みや、各部のがたつき・変形・摩耗・錆などの点検が必要である。特にシャンクの金属疲労による亀裂の有無には十分注意が必要。ギャフ(爪)の刃先の摩耗は、キックアウトを誘発するので砥ぎが必要。
7.6 リギング類 リギング作業では、予想を超える荷重がかかることがあるため、使用前、使用後の点検は重要である。損傷、変形、摩耗、腐食その他の異常が認められた場合は直ちに使用を中止し、管理責任者の判断を受けること。点検、保守および廃棄は製造者の指示を最優先とする。
第8章 器具の廃棄基準 器具は消耗品であり、永久に使えるものではない。点検で損傷、過度の摩耗、化学物質による汚染、熱損傷、固着などが確認された場合は、直ちに使用を中止し廃棄しなければならない。また、製造者が定める使用期限、耐用年数、点検基準、廃棄基準がある場合は、それを最優先とする。点検者は器具の使用可否を判断する権限を有する。安全性に疑義がある場合は、管理者の承認があっても使用してはならない。廃棄が決定したギアは、切断、破壊、マーキング等により再使用できない状態で廃棄(確実破棄)する。
第9章 器具の保管管理 器具は清潔で乾燥した状態で、直射日光、化学物質、高温、鋭利な物から隠れた場所に保管する。紫外線は合成繊維を劣化させ、強度を低下させる。ガソリン、溶剤、酸、アルカリなどの化学物質との接触を避ける。湿気はサビを発生させる。汚れたロープは清水で洗浄し、十分に乾燥させてから保管する。「保管の質が器具の寿命を決める」という認識が重要である。
第10章 作業方法選定基準 樹上作業の方法は、作業目的、作業環境、樹木の状態および作業者の安全を考慮して選定する。作業方法は、高所作業車、ハシゴ、ロープクライミング(スパイク含む)、足場設置、クレーン車などを状況に応じ、組み合わせて採用も含めて安全性及び実施可能性を評価し、より安全な方法が合理的に利用可能な場合はそれを優先する。「より危険性の低い方法を優先する」というHierarchy of Controls(危険源管理の優先順位)の考え方である。加えてロープクライミングにおいて、電動クライミングギアの使用やアセンダーの利用などの疲労軽減措置は安全作業において有効である。
第11章 ロープクライミング 11.1 安全教育の必要性 2.0mを超える樹木作業は、「ロープ高所作業特別教育」に該当しないが、「ロープ高所作業」に共通した高所の作業特性に加えて、刃物を使用する点、グラウンドワーカーとの連携作業の必要性、アンカーとして使用する樹木の理解、使用ギアの多様性、力学の理解など、多くの知識と技能に加えてリスク管理能力が必要である。加えて、高所作業車、足場、ハシゴ、クレーン車その他の作業方法を選択した場合であっても、樹冠内の作業が必要となることが想定される。現在は一般的ではないが、墜落を防止するための措置を行うにあたって、樹木作業にはロープクライミングの安全教育が極めて重要である。
11.2 作業システムの選択 作業システムは、動的な荷重(クライミング中の衝撃、スイング、ポジション変更)に対応し最も安全性の高いシステムを選択もしくは併用すること。木の股等の自然物をアンカーポイントとして使用する場合、強度保証が困難であるため自由落下距離を限りなくゼロにする(潜在的な墜落距離を抑える)システムが有効である。アンカーポイントに衝撃荷重が加わるシステムは原則として選択しない。選択した作業システムにより、使用する保護具(安全帯)を使用する。
11.3 クライミングシステムの選択 ワークポジショニングシステムを選択した場合、クライミングシステムは、MRS(Moving Rope System)とSRS(Stationary Rope System)に大別される。双方のシステムの利点、欠点を理解し単独採用、複合採用する。採用したシステムは作業員内で一番低いレベルの作業員に統一し、作業員全員が緊急時でも対応できること。レスキューを意識した作業システム、クライミングシステムの構築が大切である。
11.3.1 ワークポジショニングシステム ロープ等の張力により、U字つり状態等で安定姿勢を保ち、両手を自由に使用して作業を行うことを可能とするための機構。樹冠内作業の主たる作業形態。
11.3.2 ポジショニングランヤード(ワークポジショニング用ロープ)掛替 ポジショニングランヤード(黄ロープ)を掛け替える際は、墜落防止措置を講じる必要がある。代表的な墜落防止措置のバックアップロープ(補助ロープ)として、赤ロープもしくは青ロープを使った例を下に示す。赤ロープは上部に枝がある場合、青ロープは上部に適当な枝がない場合に用いられることが多い。
ポジショニングランヤード、バックアップロープの緩みや、ずり落ちを避けること。ワークポジショニングシステムでは少しの墜落も許さないという作業員全員の統一した意志が必要である。
11.3.3 MRS(ムービングロープシステム)とSRS(ステーショナリーロープシステム) 赤ロープ、青ロープともに、バックアップロープを高い箇所に設置した場合を示したのが、右図である。右図はともにバックアップロープであることに加え、登攀・降下にも使用できるためクライミングライン(移動用ロープ)としても使用される。この時、赤ロープは登攀・下降に伴い、ロープ設置箇所のロープが手前側や裏側に移動する。そのためMRSと呼び、青ロープは登攀・下降に伴い、ロープ設置箇所のロープが移動しない。そのためSRSと呼ぶ。
バックアップとして使用 バックアップとして使用 クライミングラインとして使用 MRS(赤ロープ)
バックアップとして使用 バックアップとして使用 クライミングラインとして使用 SRS(青ロープ)
11.3.4 SRS、キャノピーアンカー(CA)とベーサルアンカー(BA) 前で左図を紹介したが、右図のようにロープを設置しても、登攀・下降によってロープ設置個所のロープが移動しない。左図と右図を区別するために左図をキャノピーアンカー(CA)、右図をベーサルアンカー(BA)と呼ぶ。ベーサルアンカーは、設置位置によってボトムアンカーやトランクアンカーなどと呼ばれることがある。 同じSRSではあるが、ロープの設置方法の違いで木の股に掛かる荷重が異なることに注意が必要である。
キャノピーアンカー ベーサルアンカー 【参考】MRS・SRS 比較表 — 支点・フリクション系の荷重およびアンカー方式による相違 —
MRS(Moving Rope System)とSRS(Stationary Rope System)について、タイインポイント(TIP)に作用する荷重を中心に整理する。SRSはアンカー方式(キャノピー/ベーサル)により力学および運用が変化するため、両方式を分けて並記する。荷重は登攀者の体重を W として表記する。
ロープの状態 MRS TIPを通って動く(折り返し) SRS キャノピーアンカー 樹上で固定し、単線を登る SRS ベーサルアンカー 基部で固定し、TIPを越えて単線を登る 単線の張力 MRS 約 W/2(2脚で分担) SRS キャノピーアンカー 約 W(単線) SRS ベーサルアンカー 約 W(単線) フリクション系の荷重 MRS 約 W/2 SRS キャノピーアンカー 約 W SRS ベーサルアンカー 約 W TIP(支点)荷重 MRS 約 1倍(≒ W) SRS キャノピーアンカー 約 1倍(≒ W) SRS ベーサルアンカー 約 2倍(≒ 2W) TIP荷重の分散の容易さ(リダイレクト等) MRS 移動機能を阻害する可能性があるため、ダブルプーリーなど摩擦の軽減措置が必要 SRS キャノピーアンカー 容易。固定アンカーのため、複数支点の荷重分散・リダイレクト構築が可能 SRS ベーサルアンカー 容易。同上。基部側のため、地上からの調整も可能 荷重方向のコントロール(合力の鉛直成分) MRS 限定的。リダイレクトには摩擦軽減が必要となり、加えて複数のリダイレクトは枝幹との摩擦が増えるため、フリクションの操作が困難 SRS キャノピーアンカー 可能。リダイレクトで上向き成分を加え、枝の鉛直(曲げ)荷重を抑える設計が可能 SRS ベーサルアンカー 容易(自由度最大)。二脚を独立に方向づけられ、条件次第で鉛直成分を相殺しうる自由度が高い ロープ使用量 MRS 往復分(2倍手繰る) SRS キャノピーアンカー 回収式=往復分、非回収式=片道分 SRS ベーサルアンカー 往復分。降下器具(ディッセンダー等)を介し、クライマーを地上まで降下させる目的でロープを設置した場合は3倍分 アンカー位置 MRS 樹上 SRS キャノピーアンカー 樹上 SRS ベーサルアンカー 手元/樹上 点検対象 MRS TIPとスタンディング側のロープ SRS キャノピーアンカー TIPと回収側ロープ SRS ベーサルアンカー TIPとスタンディング側のロープ グラウンドワーカーによる管理(地上ビレイ) MRS MRSビレイで可能 SRS キャノピーアンカー 不可 SRS ベーサルアンカー ボトムアンカーにディッセンダーなどの降下器具を介してロープを設置した場合可能
※ 数値はいずれも静的・理想モデル(2脚が垂直平行、TIP摩擦を無視)における近似値である。実際には脚の開き角、TIPでの摩擦、および墜落・衝撃時の動的荷重によって値は変動し、特に動的ピーク荷重は上記の静的値を大きく上回る。本表は方式間の相対的な傾向を示す基準として用いること。
※ MRSのフリクション系(フリクションヒッチ・フリクションデバイス)にかかる荷重は、TIP(ロープのタイインポイント)での摩擦に加え、枝幹へのロープ接触による摩擦にも大きく影響される。これらの接触摩擦が左右の脚の張力配分を変えるため、実際の保持荷重は上記の理想値(約 W/2)から変動する。一般に接触摩擦は荷重の一部を分担してヒッチ側の張力を下げる一方、ロープの走行抵抗を増す。フリクションセーバー等の使用や枝幹の樹皮状態によって、その影響度は大きく異なる。
11.3.5 その他1(MRSとSRSの複合システム) その他、MRSとSRSを複合的に組み入れたシステムがある。力学的、作業効率などに有利な方法も検討、選択は可能であるが、レスキュー計画を必ず入れた作業システムを選択してほしい。クライマー、グラウンドワーカーに依らず作業チーム皆の安全が最優先されるべきである。
その他の情報は、「ワークポジショニング(樹上作業)ガイドライン補足―SRSベストプラクティス―」参照
11.3.6 その他2(クライミングラインによるぶら下がり作業) クライミングライン(移動用ロープ)による登攀、作業箇所までの移動、地上への降下以外で、クライミングラインとワークポジショニングランヤードによる安定姿勢確保等ができない場合、クライミングラインによるぶら下がり作業は、以下の5つの要件を満たすこと。
再度、クライミングラインとワークポジショニングランヤードによる安定姿勢確保による作業や代替作業の可能性を検討し、それらが実際の作業において難しい場合。 クライミングラインにぶら下がって行う作業が短くなるような作業計画を作成する。 1つの作業システム、2つの作業システムの併用(ダブルクロッチ)どちらの安全性が高いか精査し、安全性が高い方法を採用する。2つの作業システムの併用の場合、システム内の身体を保持する箇所にトゥース(刃)のついたバックアップシステムは使用しない。加えて、2つのシステムは緩みがない状態を保つこと。1つのシステムが失われた場合、木のタイインポイントに衝撃荷重が掛かってはならない。樹上作業者の大きなスイングが起ってはならない。 使用するワークポジショニング用器具は、サスペンショントラウマを軽減するため、バットストラップが付いたものを使用する。もしくは後付けのバットストラップを使用すること。(大腿部の静脈を圧迫して血流障害を防止するための措置を行うこと。) 作業中、足のしびれや身体の不調を随時確認し大腿部への荷重を時々抜くこと。 11.4 摩擦軽減措置など 樹上作業で、クライミングラインを使用する場合、クライミングラインと枝幹との摩擦が安全性に寄与する場合と、リスクとなる場合がある。リスクとなる例として、タイインポイントにおける木の股とロープの摩擦が、樹皮やロープの損傷につながる場合が挙げれらる。そのような場合、フォールスクロッチと呼ばれる器具を使用し樹皮やロープの損傷を防止する措置を講じること。
11.5 チーム人数の確保 2.0mを超える樹木作業において、地上に少なくとも一人の作業者(第二の樹上作業者または訓練を受けた作業者)は視覚・音声の届く範囲に配置され、明確なコミュニケーション手段を確立していること。この地上作業者は、作業者の状態を常時把握し、空中レスキューを実施できる能力を有するか、異常を認知した場合は即座に救助・緊急対応を開始できる状態にあること。加えて地上の安全管理(立入禁止区域の確保・第三者への対応)も担う。
加えてグラウンドワーカーは、クライマーの疲労軽減のため、樹上作業を優先して効率よく行えるように配慮し行動する。また、クライマーによる確認が困難な箇所(チェンソーによる切残し、ロープの干渉、切り離す枝幹の大きさ、予想される動きなど)のサポート、地上のロープを含むギア類の配置など仕事は多岐にわたり、役割は重要である。
11.6 タイインポイント(アンカー)の選択 クライマーやグラウンドワーカーが現場で行う簡易評価(一次スクリーニング)を実施し、構造的に健全で作業中に加わる荷重に耐えられるタイインポイントを選択し2名分の体重を掛けて安全性の精査を行わなければならない。タイインポイントは可能な限り作業箇所より上方に設定し、クライミングルート上方に折れ枝等の危険枝が存在してはいけない。可能であれば横移動を軽減する箇所(ストラックバイの可能性が少ない箇所)が望ましい。ポジショニング用アンカーは幹・枝直径10cm以上を基準とする(樹種・状態により要判断)。枝の向き、荷重がかかる方向により幹・枝直径が10cm以下もあり得ること。接合部の状態(内包樹皮の有無、亀裂)、樹種による強度特性を評価する。広範囲の横移動には複数のタイインポイントが必要になる場合がある。不適切な支持点の選択は、そのまま墜落リスクに直結する。「自分の命を預ける点を、自分で評価し、自分で選ぶ」という原則である。加えて樹上に到達したら作業前に、使用しているタイインポイントの健全性及び樹冠部分のインスペクションを再度行うこと。
11.7 分岐部が存在しないタイインポイント(アンカーポイント) 側枝の無い箇所で幹部に単に回しただけの方法は認められない。タイインポイントに設置したロープが張力の有無に関わらず、ずり落ちない措置を講ずること。加えてその措置は張力のかかる方向によって意図しない移動・回転が起こってはならない。
11.8 作業開始から地上へ降下まで 作業開始から作業を終え、地上に降下するまで、クライマーは常時タイインし、ロープの長さを短く調整し、張力をかけた状態で使用すること。
11.9 登攀中の確保 移動時、最低1本のロープで身体を保持し続け、もう一つの身体確保(落下防止を講じることができる)手段を保持していること。
11.10 安定姿勢の確保 樹上作業者は作業時、可能な限り、2つの独立した支持点に接続すること(二重確保)が推奨される。また、両手両足を枝幹に配置した3点支持による安定姿勢により、両手を自由に使用できる状態(安定姿勢)により作業を行う。一方のシステムが万一破損した場合でも、もう一方が作業者を支持する。これは冗長性(リダンダンシー)の原則であり、「一つの失敗で命を落とさない」ためのシステム設計思想である。「切る前に、自分の位置が安全かを確認する」ことが鉄則である。切断対象と支持点が同一の枝でないことを確認する。
11.11 タイインポイントの追加・変更 新しくタイインポイントを追加・変更する場合は、現在使用しているタイインポイントを解除する前に、新しいタイインポイントへ全体重を掛けて、枝の強度と、システムの安全性、枝の動き・音等の確認をその都度行うこと。
11.12 チェンソー使用時の確保 樹上においてチェンソーを使用するときは、クライミングラインに繋ぎ留められた状態において、これに加えて第二の確保手段(ワークポジショニング用ランヤード又は第二のクライミングライン)を使用しなければならない。(チェンソー使用時はダブルランヤードや、2in1ランヤードの両端使用は不可。)
チェンソーは作業者または樹木にバンジーコード等で固定しなければならない。但し、チェンソーバーが切り口に挟まり、切り落とす枝幹とチェンソーが共に落下することが予想される場合は、バンジーコード等を外す必要がある。片手操作は原則として禁止(特定の限定的な状況を除く)。切断時にはキックバック、プッシュバック、プルインの反力を予測し、体勢を整える。樹上でのチェンソー事故は重篤な結果をもたらすため、地上以上に慎重な操作が求められる。
チェンソー事故は切り始めと終わりに多く起こる。そのためエンジン始動前、ソーチェンのロックを確認することに加え安定姿勢を保つこと。切り終わりにガイドバーを引き出す際、ガイドバーの重さで安定姿勢が崩れることが多く、その際にソーチェンによってロープ類を損傷する。そのため、ガイドバーを木の中なら引き出す前にチェンソーのエンジンを停止するか、ソーチェンをロックすること。
11.13 ツリースパイク使用 ツリースパイクの使用は伐採する樹木にのみ使用し、保全する樹木には使用してはならない。ギャフ(爪)は樹皮と形成層を損傷し、樹木の健康に悪影響を与えるためである。ツリースパイクを使用する場合でも、適切なランヤードとの併用が必要である。ギャフ(爪)の状態を点検し、鋭利に保つ。鈍ったギャフは滑りの原因となり、危険である。分岐や枝などがない枝幹にランヤードの回し掛けは、落下の危険があるため不適。クライミングライン併用を推奨。
11.14 ギアの受け渡し 樹上での工具の受け渡しは、手渡しではなくロープによる吊り上げ・吊り下げで行う。工具の落下は地上作業者への重大な危険となる。使用しない工具は安全にワークポジショニング保護具に固定するか、地上に降ろす。刃物は鞘に入れた状態で昇降する。樹上で手を放したら落下する状態を作ってはならない。
11.15 地上への降下 地上へ降下する前に地上に降下するに足る長さのロープがあるか、障害物や絡まりがないことを確認すること。降下は制御された方法で行い、自由落下してはならない。MRSもしくはSRSを使用し、適切な速度で降下する。急速な降下はロープに熱損傷を与え、強度を低下させる可能性がある。クライミングラインの末端付近にストッパノットを作成すること。
第12章 高所作業車(キャタピラー式含む)使用 12.1 高所作業車の運転業務に関する法令 運転資格 :作業床10m未満の高所作業車の運転資格は、特別教育が必要。作業床 :10m以上の高所作業車の運転資格は、技能講習が必要。点検・検査 :作業開始前点検、定期自主検査(月1回)、特別自主検査(年1回)。悪天候時の作業禁止 :事業者は、高さが2m以上の箇所で作業を行う場合において、強風、大雨、大雪等の悪天候のため、当該作業の実施について危険が予想されるときは、当該作業に労働者を従事させてはならない。強風:10分間の平均風速が毎秒10m以上 大雨:1回の降雨量が50mm以上 大雪:1回の降雪量が25cm以上 12.2 高所作業車について 高所作業車は、安全に樹上へアクセスするための有効な車両であるが、適切に操作されなければ転倒、電線接触、墜落、挟まれなど重大な事故の原因となる。加えてバケットの大きさや、機体の進入箇所により作業範囲も限定される。非常時にブーム、バケットを含む操作(下部操作)が車体で行うことができる車両を推奨する。また下部操作方法は作業員全員周知の上で作業を開始する。
12.3 使用前点検 毎日点検を実施する。油圧系統の漏れ、ブーム動作、バケット状態、安全装置(過負荷防止、非常停止)の動作、アウトリガー、灯火類を確認する。
12.4 傾斜地での設置 高所作業車がキャビン付きの車両である場合、キャビンの設置方向について製造メーカーの仕様に基づく。また製造者の定める最大許容傾斜角度を確認し超えないように設置する。自動レベリング(水平調整)がある車両であっても水平確認は確実に行う。車両のタイヤには歯止めを設置する。
12.5 アウトリガー最大張出 アウトリガーを完全に展開し適切な敷板を使用して安定させる。片側だけの展開や不完全展開、設置場所の地盤がアウトリガー荷重を支えられるか評価する。舗装下の空洞、側溝蓋の耐力、軟弱地盤も注意する。地盤の沈下は転倒の原因となる。
12.6 作業範囲と負荷制限 作業範囲と許容荷重を厳守する。バケット定格荷重には作業者体重、ロープなどの器具が含まれる。樹上作業ではバケット内へ剪定枝を引き込む場合があるが、枝の重量も含めてバケット定格荷重を超えないように、できる限りバケット外に落下させるなどの注意が必要である。過負荷は転倒や高所作業車の破損の原因となる。
12.7 バケット内での墜落を防止するための措置 樹上作業におけるバケットからの落下により、スイングバック事故、電線へ落下、ショックアブソーバーの展開による地上への激突、一人作業時、ぶら下がった場合のレスキュー困難などの危険を考慮して、フォールアレストシステムを採用するか、レストレイントシステムを採用するか作業状況に応じて最も安全な方法を講じる必要がある。
単に要求性能墜落制止用器具(フルボディーハーネス)を着用すれば良いという考え、選択は慎むべきである。レストレイントシステムにより墜落自体を防止することも有効な選択の一つである。
その他の情報は、「ワークポジショニング(樹上作業)ガイドライン補足―高所作業車のバケット内作業におけるレストレイント保護具―」参照
12.8 バケットからの乗り移り・乗り出し バケットから樹木への乗り移り、乗り出しは、不安定な体勢での移動中の墜落リスクが高いため、原則禁止。労働安全衛生規則では、高所作業車について「主たる用途以外に使用してはならない」と定めている。製造者(メーカー)の仕様で、樹木への乗り移りも用途に含まれるか否かを確認すること。樹木での作業が必須であって、地上から登攀するよりバケットから樹木への乗り移りの方が安全性な場合であって、かつ労働者に危険が及ばない場合は事業者の判断により限定的に可能とする。ただし以下の要件を満たすこと。
ロープクライミングの安全教育を受講していること。その内容を厳守すること。その際、クライミング時の各種確認はバケット内の作業床を地面と想定して行うこと。 地上まで降下可能な長さがあるロープを使用すること。 バケットからの乗り出しは行わないこと。タイインポイントの安全性に加えシステムの有効性(動きの制御)を確認後、樹木のタイインポイントに体重を掛けた状態で、バケットを降下させること。 12.9 ブーム操作 旋回、伸縮、上下動はバケット内の作業者が安全な体勢にあることを確認してから行う。急激な操作はバケットの揺れを引き起こす。また、ブームの倒しや、ブームの伸長、旋回など、外側への荷重変位が発生する操作は控え、ブームの起こし、ブームの縮小を優先操作とする。
12.10 電線などの電気設備付近での操作 絶縁性能を持った高所作業車を使用する。すべての可動部分がMAD(Minimum Approach Distance:最小接近距離)を維持する。そのためにスポッター(Spotter:監視人)を配置する。特に樹木作業前のバケットの移動経路と作業終了後のバケットの移動経路が変化する場合は電線などへの注意が散漫とならないように注意が必要である。絶縁ブームでも過信しない。ブームの表面の汚れ、湿気、損傷は絶縁性能を低下させる。
12.11 倒木などへの下方からのアクセス禁止 倒木や折れ枝などの掛かり木の状態にある箇所へ接近する際は、その下方から接近してはならない。接近する際は不意に倒木、折れ枝等の落下が生じた場合であってもバケットに接触しないための離隔距離が必要である。それが不可能である場合、他の作業方法を選択する必要がある。
12.12 バケット内でのチェンソーの使用 チェンソーはバンジーストラップなどで固定し、不意の落下を防止する。また、ソーチェーンによるロープなどの損傷防止のため、ソーチェーンが露出しないようケースに収納すること。また切断した枝が電線、ブームやバケットに接触しないよう注意する。
12.13 走行時のブームの格納 移動時はブームを完全に格納する。展開したままの走行は転倒、電線接触、衝突の原因となる。加えて、作業員を搭乗させたままの車両の移動も原則禁止。
12.14 バケット内の整理整頓 余計な工具や材料を置かない。落下した工具は地上の作業者に重大な危険を及ぼす。
12.15 旋回範囲の管理 旋回範囲内に作業者が立ち入らないようスポッター(Spotter:監視人)を配置し管理する。ブームやバケットとの挟まれ事故を防止する。
12.16 樹木とブームの接触防止 ブーム操作中にブームが樹木に接触することを避ける。接触によりブーム破損や車両不安定化が生じる。
12.17 高所作業車からのレスキュー バケット内の作業者が負傷した場合のレスキュー手順を事前に策定する。下部操作装置による降下を計画する。
12.18 使用後の措置 ブーム格納、アウトリガー収納、車両を安全な状態にし、作業後点検を行う。絶縁部の損傷が発見された場合は感電事故を誘発する恐れがあるため修理完了まで使用できないように車両の管理を行う。異常は記録し次の使用者に伝達する。
第13章 ハシゴ使用 樹木作業においてハシゴの使用は、樹冠への主要なアクセス手段として使用される場合と、樹冠作業のため、最初の下枝へのアクセスのための補助的手段として使用することが多い。
樹冠への主要なアクセス手段として使用される場合とは、ハシゴ上での作業も含まれる。ただしハシゴは作業床ではなく昇降設備であるため、「作業場所」として長時間使用することは本来望ましくない。
13.1 ハシゴ使用前の確認 13.1.1 樹木の強度確認 樹木自体が支えとして機能しない場合、ハシゴの設置は行わない。支えとして機能しないとは、枯損、細い枝、斜めの枝、腐朽、空洞、根返りの恐れがある木、強風時、積雪・凍結時などが挙げられる。
13.1.2 地面の確認 安定した水平な地面に設置する。軟弱地盤、ぬかるみ、砂利の浮いた地面、傾斜地、凍結面などの場合、敷板などでハシゴ下端の設置を水平及び安定にする。加えて敷板及びハシゴ下端の滑りには十分注意し、防止措置が必要である。
13.1.3 ハシゴの点検 使用前にハシゴを点検する。横桟の緩み、割れ、変形、側桁の損傷、滑り止めの状態を確認する。損傷したハシゴは「修理して使う」のではなく廃棄する。
13.2 ハシゴの種類 樹木作業では、電線付近で作業を行う場合は、電気絶縁性に優れているFRP製等のハシゴを使用すること。(金属製ハシゴを使用してはならない。)その他、長さ、耐荷重、収納性能等が作業に適しているかどうか確認する。また、運搬時ハシゴの上端下端を構造物や電線に接触させないよう注意して運ぶ。
13.3 設置の基本 ハシゴは安定した水平な地面に設置する。設置角度は約75度(4対1の比率:高さ4に対して足元の距離1)が基本である。突き出し長さは、到達面より60cm以上突出が原則である。樹木作業の場合、枝のしなり等を考慮して90cm以上突出を推奨する。
13.4 ハシゴの固定 ハシゴ使用時は、木等とハシゴ上端が必ず固定されている必要がある。ハシゴを固定するまではハシゴを昇る作業員とは別の作業員によるハシゴの保持が必要である。ハシゴの固定はランヤード設置後に行う。加えてハシゴ下端が滑らないようスパイクや滑り止めを使用する。ハシゴの横振れ等防止の追加措置としてハシゴ上両端それぞれをロープにより地面に向かってハの字に固定することも有効である。
13.5 ハシゴの昇降 ハシゴの昇降時には、3点支持を維持する。3点支持とは、通常、両手・両足の4点のうち3点により身体を支えることを指す。工具などを手に持ったまま昇降しない。工具などの上げ下ろしはロープなどを使用して行い、工具などには樹上からの落下防止のためのバンジーストラップなどを取り付けること。
13.6 ハシゴ上での作業 ハシゴは昇降設備であるため、作業箇所としての使用は望ましくない。加えて、ハシゴ上での身体の移動はハシゴの転位に繋がり転落の危険が大きい。しかし、樹木作業ではハシゴ上作業の代替措置が少なく、足場設置も使用時間面、経済面からも現実的でない場合が多い。ハシゴ上での作業は推奨しないが、やむを得ずハシゴ上での作業が必要な場合は、樹木健全性確認、地盤確認、75度設置、上端固定、下端滑り止め、60cm突出、3点支持、工具はロープで揚降、工具等の落下防止措置に加え、「クライミングラインとランヤード」の二重確保が必要である。ハシゴ上では、チェンソーの使用、リギング(枝幹の吊り降ろし)は原則禁止である。
13.7 ハシゴの保管 ハシゴはメーカーの仕様に従い保管を行い、保管中の転倒やつまずき事故が起きないよう保管する。直射日光や雨風から保護する。FRP製ハシゴは紫外線劣化に注意する。
第14章 電気の危険認識 多くの樹木の近くには電線が存在していて、樹木作業者は日常的に電気の危険にさらされる。感電は即死または重篤な火傷をもたらし、生存しても後遺症が残ることが多い。電気は目に見えず、音もなく、臭いもない。「見えない危険」であるのが特徴である。知識と規律でしか身を守れない。すべての電線は、配電停止が確認されるまで「通電している」とみなして扱わなければならない。電気災害を防ぐためには、技術よりも先に「危険を認識する力」が必要である。
14.1 電気とは何か 電気は、電位差によって流れるエネルギーである。難しい理論を理解する必要はない。樹木作業者として重要なのは、次の3点である。
電気は流れる。電気は、流れる経路を探す。 人体も導体になる。人間の体は電気を通す。特に、汗や雨で濡れている場合は危険である。 地面へ流れようとする。電気は、地面へ流れる経路を作ろうとする。 14.1.1 樹木作業で注意すべき導体 クライミングロープ リギングロープ スローライン ワイヤー 濡れた枝 金属工具 ノコギリ チェンソー 高所作業車 人体 14.1.2 直接接触と間接接触 感電は、電流が人体を通って流れることで起こる。その経路によって、感電は次の2つに分けられる。いずれも重篤な負傷または死亡をもたらす。
直接接触:充電部(電線など、通電している部分)に、人体が直接触れて感電すること。 間接接触:本来は電気が流れていないはずの物(ロープ・枝・工具・機械の金属部など)が、充電部に接触・近接して通電し、それを介して人体が感電すること。 14.1.3 接触電圧(タッチポテンシャル)と歩行電圧(ステップポテンシャル) 地面に電流が流れ込むと、その周囲の地面に電位の差(電位勾配)が生じる。これにより、電線に直接触れていなくても、次の二つの感電が起こり得る。どちらも間接接触の形態である。
接触電圧:充電された物体(電線・倒木・機械など)に触れた手と、立っている足の間に生じる電圧。物体に触れることで人体に電流が流れる。 歩行電圧:電線が地面に落ちた地点の周囲では、地面に電位勾配が生じる。その上を歩くと、開いた両足の位置の電位差が脚の間にかかる。流れ込み地点に近いほど、また歩幅が大きいほど危険が増す。 想定される事例
高所作業車と充電電線の距離が意図せずMAD未満になった場合、地上の作業者は歩行電圧・接触電圧の危険から身を守るため、直ちに全員に警告し、高所作業車から離れなければならない。MADが再確立されるまで、車両と装備に接触してはならない。これは地上作業者が電線接触の「二次被害者」となることを防ぐ新たな規定である。
14.1.4 アーク放電 高電圧では、直接接触しなくても、十分に近接するだけで空気中を電気が飛ぶ(アーク放電)。アークフラッシュは、電圧が高いほど、また湿度が高いほど、より長い距離で発生する。MADが単なる「接触防止」ではなく「アーク放電防止」も含む距離である理由がここにある。「触れていないから安全」という認識は、高圧線の前では通用しない。
14.2 電線の種類の識別 現場に存在する電線の種類を識別できなければならない。送電線、高圧線、低圧線、通信線、ケーブルテレビ線、インターネット回線などがある。外見だけでは電圧を判断できない場合がある。判断がつかない場合は、最も危険な電線(最高電圧)とみなして対応する。「たぶん通信線だろう」という推測は、感電という命に関わる誤判断となり得る。また、通信線の切断は通信障害及び復旧費用の発生など影響が大きく、慎重な判断を要する。
日本の電圧区分は、電気設備に関する技術基準を定める省令により、次のように定められている。家庭や事業所で使う100V・200Vは、いずれも低圧である。
区分 交流(AC) 直流(DC) 低圧 600V 以下 750V 以下 高圧 600V 超 〜 7,000V 以下 750V 超 〜 7,000V 以下 特別高圧 7,000V 超 7,000V 超
※ 高圧6,600Vを柱上変圧器で100V・200Vに下げて使用する。契約電力50kW以上の事業所では、6,600Vの高圧を施設内のキュービクルで受電する。
図 電柱の電線の電圧層(上にあるほど高電圧。)
14.3 電波塔と高周波電磁波 感電とは別の電気的な危険として、電波塔や携帯電話基地局の近傍での作業がある。電波塔から発信され、携帯電話などで使われる電波は、高周波(高周波電磁波)に分類される。
電波の強さは、アンテナからの距離の二乗に反比例して小さくなる。 総務省の電波防護指針の基準では、電波塔から数十メートル離れれば、人体への影響は事実上ないレベルとされる。 ただし、大電力の放送塔等では、基準値を超える区域に柵が設けられていることがある。 電波塔の近傍で作業する場合は、事前に離隔距離、電磁波対策の有無、可能な作業時間などを検討する。
14.4 作業前の危険認識 14.4.1 有資格者によるリスク判断 作業の前に、有資格者が電気的危険のリスクの有無を点検・判断しなければならない。これは、現地調査の前提となる最初の手順である。これは、単なる「電線があるかないか」の確認ではなく、電線の種類、電圧、樹木との位置関係、必要なMADを専門的に評価することを意味する。
リスクの存在を見落とさないよう、有資格者が責任をもって点検する。 判断が難しい場合は、自分で結論を出さず、電力会社に相談する。 14.4.2 現地調査における確認事項 電線の有無 高圧線標識 引込線 通信線 支障木の状況 作業機械の使用 緊急時の避難経路 14.4.3 通電の兆候(焼損・炭化) 電線の接触やアークによって、焼けた枝・炭化した幹・焼損した樹皮が見られる場合は、その樹木は通電している可能性があると判断する。
14.4.4 自然災害時の取扱い 夜間や、台風・地震・大雪などの後の倒木処理や復旧作業は、視界の低下、滑りやすい足元、電気の危険性の増大により、平常時の前提が崩れリスクが大幅に高まる。特に台風後の緊急復旧作業では、時間的プレッシャーと危険の増大が同時に発生する。「急いでいるから」という理由で安全手順を省くことが、最も危険な判断である。次のような状態が起こり得る。
停電しているはずの線が、自家発電機からの逆送電(バックフィード)や、電力会社の自動再閉路によって、再び充電される。 高圧線が低圧線に接触(混触)し、低圧線に異常な高電圧が流れる。 断線して地面に落ちた電線が、なお通電されている。 並行する停電中の線に、誘導電圧が生じる。 災害時は、どの電線が・どの電圧で・通電しているかが、外見からは一切判断できない。
災害時・緊急時は、感電を含む被災のリスクが平常時より大きくなる。これらの作業には、専門の有資格者が対応する必要がある。
14.4.5 作業計画 通電線樹木作業の作業計画には、少なくとも次の事項を含める。
電力線位置図 監視人の名称・監視位置 関係機関との連絡系統図 安全要求事項 管轄電力会社 樹木管理会社 通電線樹木作業員とそのレベル 危険低減措置の選択(停電・検電・隔離・接地) また、作業計画では、危険の特定・危険の共有・危険低減措置の実施を行う。
14.4.6 電線近接作業のブリーフィング 電線が近くにある現場では、ブリーフィングで電線の位置、種類、MADを全員に共有する。電線が作業に与える影響(落下方向の制限、リギングの必要性、使用装備の制限)を明確にする。地上作業者も電線の位置を認識していなければならない。作業前に電気危険チェックリストを実施することを制度化する。チェックリストには、電線の種類と電圧の確認、MADの決定、作業方法の選定、電力会社への連絡の要否、PPEの確認、緊急時対応手順を含める。
14.4.7 電気に関する危険認識の訓練 樹木作業に従事する作業者は、電気危険の認識と対応について訓練を受けなければならない。訓練には、電線の識別、MADの理解、導電経路の認識、電線接触時の対応、停電要請の手順が含まれる。電気は「知識」でしか防げない危険である。
14.4.8 電気事故における原則 レスキュー技術より危険認識 救助より安全確保 電源遮断確認が最優先 14.4.9 通電線樹木作業のレベル区分 通電線の近傍で行う樹木作業は、対象電圧及び実施主体により、次の4つのレベルに区分する。
電力会社の委託によらない作業
低圧付近で行う樹木作業を「レベル1低圧通電線樹木作業」
高圧付近で行う樹木作業を「レベル2高圧通電線樹木作業」
電力会社の委託による作業
特別高圧(154,000V 未満)付近で行う樹木作業を「レベル3特別高圧通電線樹木作業」
特別高圧(154,000V 以上)付近で行う樹木作業を「レベル4特別高圧通電線樹木作業」 と定義する。
レベル1低圧通電線樹木作業は、家庭や事業所で使う100V、200Vを対象とする。
レベル2高圧通電線樹木作業は、街路樹や公園の高木の樹冠頂部付近にある6,600Vを対象とする。ただし工場や、ビルなどに配電設備が付随している場合、電線から配電設備までの引込線が低い箇所を通過している場合があるので、注意が必要。
14.5 電力会社との連携 電線近接作業では、電力会社との事前連絡が不可欠である。停電の要請、電線の種類と電圧の確認、作業方法の協議、緊急時の連絡先を事前に確立する。加えて電力会社やNTTなどの通信事業者への連絡が必要になる場合がある。「連絡しなくても大丈夫だろう」という判断は、感電事故や電力供給障害のリスクを生む。
14.6 最小接近距離(MAD) 通電している電線に対して、作業者の体、工具、クライミングロープ、リギングロープ、スローライン、樹木の部分、梯子・高所作業車(絶縁式を含む)が維持すべき最小距離が定められている。MADは電圧によって異なる。樹木作業のMADは、一般的な電気安全基準よりも保守的に設定されている。その理由は、樹木作業には導電性のある材料(湿った木材、金属工具、ワイヤーロープ)と予測できない動き(枝の落下、ロープの揺れ、体の移動)が伴うからである。MADは「余裕」ではなく「生存のための最低限」である。MADを維持できない場合、作業を中止し感電リスクを軽減する措置を講じなければならない。
14.6.1 電圧別のMAD値 通電線樹木作業の区分(レベル)
通電線の近傍で行う樹木作業は、対象となる電圧によって次の4つのレベルに区分する。レベルが上がるほど、必要な離隔距離が大きくなる。
この距離は、作業者の体だけでなく、保持する工具、扱う材料、操作する機械のすべての部分に適用される。「自分の手が届かないから安全」ではなく、「何もかも届かない」状態でなければ安全ではない。
作業区分 電圧 離隔距離 備考 レベル1 低圧通電線樹木作業 100V・200V 2.0m 以上 通達最低値1m、電力会社推奨値2m レベル2 高圧通電線樹木作業 6,600V 2.0m 以上 通達最低値1.2m、電力会社推奨値2m レベル3 特別高圧通電線樹木作業 22,000V・66,000V 3.0m・4.0m 以上 電力会社推奨値に従う レベル4 特別高圧通電線樹木作業 154,000V 以上 5.0m 以上 事前に電力会社と協議のうえ確認した値に従う
※ レベル3・4(特別高圧)は電力会社推奨値に従う。レベル4(154,000V以上)は、事前に電力会社と協議・確認した値に従うこと。
※通達:昭和50年12月17日付け基発第759号「移動式クレーン等の送配電線類への接触による感電防止災害防止対策について」
※電力会社推奨値:関西電力送配電「配電線(電柱)の近くでのクレーン作業や足場の組み立て」
懸垂がいしの個数による電圧判別
電圧 懸垂がいし (目安) 通達 最低値 電力会社 推奨値 備考 6,600V(高圧) ピンがいし 1.2m 2.0m 一般電柱(電力会社配電線)の大半がこの電圧 22,000V 2〜4個 2.0m 3.0m ― 66,000V 5〜8個 2.2m 4.0m 鉄道用鉄塔では2個の場合あり。要確認 154,000V 10〜14個 4.0m 5.0m ― 275,000V 17〜24個 6.4m 7.0m ― 500,000V 35個程度 10.8m 11.0m 長幹がいしの場合もあり。要電力会社確認
※ 鉄道用鉄塔など、上表と個数が異なる場合がある。判別に迷うときは電力会社・鉄道会社へ確認する。
※通達:昭和50年12月17日付け基発第759号「移動式クレーン等の送配電線類への接触による感電防止災害防止対策について」
※電力会社推奨値:関西電力送配電「配電線(電柱)の近くでのクレーン作業や足場の組み立て」
がいしの種類
14.6.2 電線は動くことを前提にする 電線近くで作業する有資格者は、電線が固定物ではないことを理解していなければならない。
風で揺れる。 着雪・着氷の荷重でたわみ、位置が変わる。 夏場の高温時には、伸びて下がる。 樹木自体も風で揺れるため、電線と樹木の両方が動くことを前提にMADを評価しなければならない。そのため、離隔距離は静止して見えるときの見た目よりも大きくとる。
14.6.3 高地でのMAD標高補正 高地(標高の高い場所)では、空気の絶縁性能(絶縁耐力)が低下する。このため、標高に応じてMADを補正し、離隔距離を平地よりも大きくとる必要がある。
14.6.4 最小接近距離(MAD)が確保できない場合 作業のどの局面でも最小接近距離(MAD)を保持できない場合は作業を停止し、感電リスクを軽減する措置を講じなければならない。距離をとれない状態で作業を続けてはならない。
14.7 電線接触時の対応 樹木の一部や装備が電線に接触した場合、作業者はその樹木や装備から離れ、電力会社に直ちに通報しなければならない。電線の損傷を隠したり、報告を怠ったりすることは、後続の作業者や一般市民を危険にさらす。連絡は法的義務であると同時に、プロフェッショナルとしての責任である。電線に接触している樹木や装備に触れてはならない。地面に落ちた電線にも近づいてはならない(歩行電圧による感電のリスク)。感電者がいる場合、救助者は自分が感電しないよう注意しながら救助する。「助けに行った人も感電する」二次災害を防がなければならない。
14.7.1 樹木と電線の接触 樹木の枝が既に電線に接触している場合、その樹木全体が帯電している可能性がある。湿った幹や枝は導電性が高く、感電のリスクがある。電線に接触した樹木には、停電が確認されるまで絶対に登ってはならない。「木は絶縁体」という誤解があるが、生木は導電体である。
14.7.2 切断した枝の電線への接触 剪定や伐採時に切断した枝や幹が落下して電線に接触するリスクを常に考慮する。落下物の軌道上に電線がある場合、枝幹の制御降下(リギング)または落下方向の変更が必要である。枝が電線に接触すると、電線を損傷させ、停電や電線の落下を引き起こす可能性がある。
14.7.3 車両と電線の接触 クレーン、高所作業車、トラックのブームなど、車両の可動部分が電線に接触するリスクを評価する。車両が電線に接触した場合、車両全体が帯電し、地面との間で感電が発生する。車両のオペレーターは、キャビン内に留まり、電力会社の到着を待つ。降りる必要がある場合は、両足を揃えて飛び降り、歩幅で電圧差が生じないようにする。
14.8 電線付近作業 14.8.1 慣れへの警戒 電気事故の最大の原因は、技術不足ではなく「慣れ」である。経験を積むほど、電線の存在に対する警戒心が薄れる。特に低圧線(引込線、二次側線)に対して「たいしたことない」と油断する傾向があるが、実際には低圧線による死亡事故も発生している。「電気は経験や意図を問わない」という認識を常に更新し続ける。繰り返し作業による自動操縦状態(オートパイロット状態)と言われる「意識的に集中しなくても無意識のうちに物事をこなしている心理状態」を回避するため、定期的な休憩と意識的な集中力の回復を行う。
14.8.2 通電線に向き合う原則 電線近接作業では、常に電線を視界に入れて作業する。電線に背を向けた状態での作業は、MAD侵入に気づかないリスクを高める。切断作業は正面で行い、背後側では行わない。MADでの枝幹切断は、実行前に頭の中で複数回リハーサルしてから行う。これは「危険を正面から見据えることが安全の基本」であるという原則である。
14.8.3 停電要請
電線に近接した樹木作業を行う場合、可能な限り電力会社に停電を要請する。停電が最も確実な安全対策である。停電が不可能な場合は、電線の種類と電圧に応じた適切な作業方法を選択する。停電後は、接地が行われていることを確認する。「停電した」と言われても、停電箇所・範囲・停電期間が明確でない場合は、通電状態として扱う。
つまり「停電=接触してよい」ではなく、停電後も通電設備と同様の警戒を維持することが基本原則である。
手順:停電 → 試験(検電) →ボンディング→ 接地 → 作業 → 作業完了確認 → 再通電
重要な点は次のとおりである。
• アーボリスト自身が「停電した」と判断しない。
• 電力会社の有資格者から正式な通知を受ける。
• 接地の設置を目視で確認する。
• 再通電後は、即座に活線(通電中)として扱う。
14.8.4 ボンディングと接地 電線作業では、適切なボンディングと接地が安全の基本である。
ボンディング(Bonding)とは、複数の金属部分を導体で接続し、電流を地面へ逃がすのではなく、「電位差をなくす」ことを目的とする。同じ電位にすることである。仮に電圧がかかっても、作業者が同時に触れている部分同士の電位差が小さくなるため感電リスクが下がる。
接地(Grounding)とは、機器や設備を大地と接続することである。漏電や落雷などで異常電流が発生した際に、電流を安全に地面へ流す、過電圧を抑える、ブレーカーや保護装置を確実に動作させる、ために行う。
配電線の活線近接作業では、「まずボンディングし、その後に接地する」という考え方が重要である。理由は、接地線を接続する際に電位差があるとアークが発生する可能性があるためである。樹木作業者は通常、接地作業を行う立場ではないが、
接地された設備だから安全とは限らない 金属同士の電位差が感電を生む 同時接触(simultaneous contact)が危険 という意識が大切である。
14.8.5 複数の電線がある場合 電柱には複数の電線(送電線、配電線、引込線、通信線)が架かっていることが多い。それぞれの電線の電圧と位置を認識し、最も危険な電線に対するMADを基準とする。
MAD(最小接近距離)は、近くに見える電線ではなく、作業範囲内に存在する「最も高い電圧」を基準に決める。
1本の電柱や同じ電線路に、低圧・高圧・特別高圧が混在していることが多い。 どの電線が何ボルトかは、地上からの外見だけでは判別できない。 枝やロープは、最も近い線ではなく、より高い電圧の線へ向かって落下・振れることがある。 電圧が判別できない場合は、最も高い電圧とみなして離隔をとる。一つの電線を避けても、別の電線に接近する可能性を常に意識する。不明なときは作業を進めず、電力会社へ確認する。
14.8.6 電線の付属装置 電柱には、変圧器、ヒューズ、開閉器、支線などの付属装置がある。これらにも電気的危険があり、接触してはならない。支線(ガイワイヤー)は通常接地されているが、電線の事故時には帯電する可能性がある。電柱の付属装置は、電力会社の許可なく触れてはならない。
14.8.7 悪天候時の作業中止 悪天候時は、通電中の電線近傍での作業を中止する。労働安全衛生規則では、悪天候の定義が次のように示されている。
区分 定義 強風 10分間の平均風速が毎秒10m以上 暴風 瞬間風速が毎秒30mを超える 大雨 1回の降雨量が50mm以上 大雪 1回の降雪量が25cm以上 地震 中震(震度4)以上
根拠:労働安全衛生規則 第522条、解釈例規(昭和34年2月18日 基発第101号)。「悪天候のため」には、気象注意報・警報が発せられ悪天候が予想される場合を含む。
雨天、霧、高湿度の状況では、電気の危険性が増大する。水分が導電経路を形成し、アーク放電の距離も延びる。湿ったロープ、湿った木材は導電性が高まる。悪天候時の電線近接作業は、晴天時よりも大きなMADを確保するか、作業を中止する判断が必要である。
14.8.8 暴風雨・災害時の特別規定 暴風雨や災害時の電線が関与する樹木作業は、電力会社の正式な指名業者のみが行うものとする。災害時は通常と異なる配線構成や損傷した電線が存在し、すべてのインフラが通電している可能性があるとみなす。
14.8.9 PPE(個人用保護具) 電線近接作業時のPPEは、電気危険に対応したものでなければならない。ただし、PPEは電気危険に対する主たる防護手段ではなく、MADの維持が最も重要な安全対策である。線路保守作業者には、電圧に応じた等級の絶縁手袋、絶縁スリーブ、電気対応のヘルメットなどが要求される。PPEは使用前に点検し、絶縁性能が維持されていることを確認する。絶縁手袋には穴があいていないことを、エアテストで確認する。 活線接近警報器(高所作業車など、無意識に高圧電線へ近づいてしまうことによる感電事故を防ぐための装置)の装着も有効に活用すること。
14.8.10 被覆線への過信 電線の被覆は、必ずしも絶縁体ではない。配電線の被覆は主に風雨からの保護を目的としており、人体の接触に対する完全な絶縁を保証するものではない。特に劣化した被覆、樹木の枝等と摩擦により損傷した被覆は、絶縁性能が失われている可能性がある。「被覆があるから安全」という思い込みは、最も危険な誤解の一つである。すべての電線は被覆の有無にかかわらず、充電されているものとして扱う。
14.8.11 保護具・絶縁カバーへの過信 電線に絶縁カバー、ブランケット、ホース、スリーブその他の場合でも、MADは維持しなければならない。絶縁カバーは電線への接触を防ぐためのものではなく、風雨等から電線を保護するためのものである。「カバーがあるから安全」という認識は許されない。
市販のゴム手袋・ゴム長靴には絶縁機能が明確ではないため、感電防止用保護具には含まない。「着けているから安全」ではない。安全の基本は、あくまでMAD(最小接近距離)を守ることである。 電線近傍で作業する場合は、絶縁カバーを取り付けたうえで作業する。ただし、絶縁カバーがあってもMADは変わらない。 植生が、通電中の電線・電気施設に接触している、又はMADの範囲内にある場合は、乾燥した絶縁道具以外を使用してはならない。 14.8.12 電気的危険がある場所での器具選択 電気的危険がある場所では、非導電性のハシゴを使用する。 電線の近くで使用するポールツール(ポールソー、ポールプルーナー等)は、FRP(繊維強化プラスチック)または木製のものでなければならない。金属製のポールは導電体であり、電線接触時に感電の危険がある。 ワイヤコア・ランヤード(金属芯入りランヤード)は、通電線・通電電力施設・送電線の近傍で使用してはならない。 14.8.13 グラウンドワーカーによるMADの監視(スポッターの配置) 通電線・電気施設での作業には、専任のスポッター(監視員)を配置し、距離を監視する。スポッターは、高所作業車のブームやバケットがMADに侵入する可能性がある場合に、全地上作業員(装備オペレーター含む)に警告し、車両および付属装備から離れるよう指示する。MADが視覚的に確認され通信されるまで、作業を再開してはならない。
MADが侵害されるおそれがある場合、スポッターは、機器操作者・地上作業員を含むすべての作業員に、それぞれの機器から離れるよう警告する。 バケットの操縦者が進行方向の視界を遮られている場合は、スポッターが見えない部分を補佐する。 バケット操作時の移動経路は事前に決定し、操縦者・スポッター・グラウンドワーカーの全員に周知する。 14.8.14 樹上作業での接近回避(クライミング) クライミングルートは電線から離れた側に設定する。電線の位置を確認しながら、電線に正対して登攀することが望ましい。 アンカーポイントは電線から離れた上方に設置する。スイングバック(振り戻し)が発生しても、電線に向かってスイングしない位置とする。 切り落とした枝などを、電線の上に落としてはならない。 14.8.15 樹上作業での接近回避(リギング) 電線近くでのリギングは、最も危険な組み合わせの一つである。セクションの落下経路、ロープの振れ、振り子運動のすべてが電線接触のリスクとなる。制御降下の経路を電線から十分に離し、必要に応じて停電を要請する。
14.8.16 チェンソーの使用 電線近くでのチェンソー使用には、特有のリスクがある。チェンソーの金属部分が電線に接触すると、作業者に電気が流れる。切断時のチェンソーの動き、切断された枝の動き、キックバックによる予想外の動きが電線への接触を引き起こす可能性がある。電線近くでは、小さな切断を繰り返す慎重なアプローチが必要である。
14.8.17 高所作業車の電気的安全条件 絶縁ブームの高所作業車の使用が推奨。絶縁ブーム式高所作業車は、一般の高所作業車の構造規格に加え、電気絶縁性能を維持するための耐電圧試験が求められる。高所作業車そのものの構造要件は「高所作業車構造規格」で定められているが、絶縁性能については主に電力業界規格やメーカー基準により管理されている。「絶縁ブーム車だから高圧線に触れても安全」ではない。絶縁性能は、ブーム表面の汚れ、雨水、樹液、薬剤散布液、FRPの劣化などによって大きく低下する。絶縁ブームは一次保護ではなく、最低離隔距離(MAD)を維持するための補助保護手段として扱う。
絶縁ブームの高所作業車の所有状況は多くはなく、また、レンタルにも絶縁ブームの高所作業車の配置は、種類・数量が限定されることが多いのが現状である。その場合、最低離隔距離(MAD)を含めた感電対策をしっかり行い、作業員の安全を確保すること。
日本で一般的に採用される絶縁性能
電力配電線(6.6kV)作業用の絶縁ブーム車では、一般的に次のレベルの耐電圧性能が採用される。
項目 一般的な基準 定格使用電圧 6.6kV配電線 絶縁ブーム耐電圧 約20kV~50kV FRPブーム絶縁抵抗 数百MΩ以上 定期耐電圧試験 年次または特定自主検査時
実務上は「6.6kV線路に接近して作業できる絶縁性能」を確保するため、使用電圧の数倍の試験電圧で確認される。
14.8.18 高所作業車のバケット内への電気ケーブル持ち込み禁止 電線の近くで作業する際、車両または他の電源からバケット内へ電気ケーブルやコードを引き込んではならない。電気ケーブルは、絶縁ブームの絶縁性能を無効化する導電経路となる。照明器具、電動工具のコードも同様である。
14.8.19 高所作業車での接近回避 高所作業車(バケット車等)を通電線の近傍で用いる場合は、次による。
ブーム・バケットなど高所作業装置のいずれの部分も、通電中の電力線・電柱・類似の導電性物体に接触したり、MAD(最小接近距離)を侵害したりしてはならない。 高所作業装置と通電中の電力線との距離がMAD未満になった場合、地上作業員は高所作業車などの車両から離れ、MADが再び確保されるまで近づいてはならない。 MADの侵害や接触があった場合、グラウンドワーカー・周辺作業員・操縦者は、歩行電圧(Step Potential)・接触電圧(Touch Potential)による感電を防ぐため、車両などの感電要因から離れる。 バケットに搭乗していても、樹木を介した支柱との接触、リギングロープとの接触、相間接触(phase-to-phase contact)が起こり得る。その経路により死亡・重症となることがある。 高所作業車は移動中も、地盤の傾斜と、電線までの距離を評価する。 バケット内の作業者及び地上配置のスポッター(監視員)を配置し電線との距離を常時監視。 14.9 感電事故発生 感電事故が発生した際には、「助けようとして二次災害を起こさないこと」が最も重要である。特に樹木作業や電線近接作業では、救助者が感電する事故が少なくない。
手順:停電要請 → 試験(検電) →ボンディング→ 接地 →救助
「停電確認までは被災者に触らない、近づかない、停電確認まで救助できない。」
14.9.1 感電事故発生時禁止事項 被災者を素手で引き離そうとする。被災者の身体を通じて電流が流れている可能性があり、救助者も感電する。
電力会社や設備管理者の確認前に接近する。高圧線や特別高圧線では、
スイッチを切ったと思っても逆送電がある 自家発電設備が接続されている 自動再閉路装置が作動する 場合がある。
地絡点へ走って近づく。電線が地面に接触すると周囲に電圧勾配が生じる。このとき発生するのが、接触電圧・歩行電圧である。近づく必要がある場合は、電気事業者や訓練を受けた者を除き、原則として近寄らないことが重要である。
特に樹上作業で感電事故が発生した場合、樹木全体が帯電している可能性があるため以下のことは禁止とする。
樹上作業者をすぐにロープで降ろそうとしない。 樹木に登って救助しようとしない。 クライミングロープや、リギングロープを引っ張らない。 高所作業車で接近しない。 特に高圧配電線(6.6kV)では、枝葉を介して通電していることがあり、樹木に触れただけで感電する危険がある。
14.9.2 感電事故発生時の基本行動 1. 作業停止、接近しない
2. 周囲への危険周知、立入禁止にする
3. 電力会社へ通報、電源遮断、停電要請
4. 119番通報、指示を仰ぐ
5. 準備(交通整理、AED手配、被災者の状況確認、救急セット確認など)
6. 安全確認後に救助
7. 必要に応じてCPR(心肺蘇生法)、AED(自動体外式除細動器)による緊急措置開始
参考文献
・ 労働安全衛生規則(ロープ高所作業関連・平成28年改正、墜落防止関連・平成31年改正)
・ 墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン(平成30年6月22日付け基発0622第2号)
・ JIS T 8165:2018(墜落制止用器具)から一部引用
・ ISO 22846 Part 1・Part 2(個人用墜落防止装備 / ロープアクセスシステム)
・ ANSI Z133(Arboricultural Operations – Safety Requirements)参照
・ ISA Best Management Practices: Tree Risk Assessment
・ 資料3 個人用保護システムの分類例
・ 昭和50年12月17日付け基発第759号「移動式クレーン等の送配電線類への接触による感電防止災害防止対策について」
・ 関西電力送配電「配電線(電柱)の近くでのクレーン作業や足場の組み立て」
特記事項
1 樹木作業における安全プロトコルへの準拠と免責
樹木作業における安全プロトコルへの準拠は、すべての状況下における安全を保証するものではない。本プロトコル作成者である(一社)Tree Care Safety Associationは、発生する可能性のある、いかなる事故においても責任を負わない。
2 著作・使用条件
本プロトコルの著作は(一社)Tree Care Safety Associationに帰属する。全内容を採用する必要はなく、必要な箇所のみの採用・使用も可とする。但し、その採用から発生するいかなる損害・事故について(一社)Tree Care Safety Associationは、責任を負わない。内容変更し採用する場合は変更内容の事前許可が必要。
連絡先:tcsa-dendro@outlook.com
使用の際は「樹木作業における安全プロトコル:(一社)Tree Care Safety Association」を明記すること。
3 改訂
本プロトコルは適宜改訂されるため、作業前に最新改訂版を確認すること。
改訂履歴
改訂日 内容 2026年7月1日 初版 2026年9月21日 改訂